2013年1月15日火曜日

成功は無謬を意味しない


 昨年末のレコード大賞では、服部克久さんの「これが日本の音楽業界の現状です」発言が、暗にAKB48を批判したものなのではないかと波紋を呼びました。
 たしかに「同じ人が何枚も買うことを狙って握手券や選挙の投票用紙をつける」商法には、音楽産業の本道を踏み外している観もあります。

 しかし、「モノを売るな!コトを売れ!ストーリーを売れ!」という現代マーケティングの教えにこれほど忠実な実践例はほかに無いのではないか、とも思います。秋元康氏らが売っているのは、「アイドルの卵のパトロンになる夢」だという気がするのです。

 ところで、昨年はいろいろな場面で、「理屈じゃない、結果がすべてだ、売れればいいんだ」という発言を耳にしました。
 その多くは、「成功例」とされる事例の欠点を指摘したときに返ってきた反応です(機会があったら、彼らにAKB48に対する評価を聞いてみたい。きっと、高く評価しておられることでしょう)。

 私は、結果がすべてだ云々というコメントを聞くたびに「好業績ファンドランキング」を連想します。
 そのココロは、『結果は時間軸の設定いかんで大きく変わる』ということです。循環的な価格変動を繰り返すファンドは、上昇局面だけをとりだせば、いくらでも好業績を謳うことができますから。
 つい先日宮崎地裁に破産を申し立てた「TORIAEZU」も、宮崎を代表するB級グルメ「肉巻きおにぎり」の元祖として「にくまき本舗」の屋号で人気を集めた企業でした。数年前は類まれな成功例ともてはやされたことでしょう。
 
 経営に失敗した元経営者へのインタビューで躓きの核心に迫る『日経ビジネス』の「敗軍の将、兵を語る」のコーナーで、多くの元経営者が言及するのは、「良かったとき」にすでに失敗の芽があった、「良かったこと」で目が曇ってしまっていた、ということ。
 彼らの反省の弁は、「成功は無謬を意味しない」という、ごく当たり前のことを改めて教えてくれます。

 内藤耕『「最強のサービス」の教科書』 (講談社現代新書)に採り上げられたサービス先進企業にも、共通の特色を見出すことができます。
 それは、自分たちが不完全であるという認識を持ち続けているということです。加賀屋のような著名な旅館も例外ではありませんでした(蛇足ですが、本書を読むと、加賀屋のおもてなしを支えているのが、きわめて合理的なシステムであることが理解できます)。

 「理屈じゃない、結果がすべてだ、売れればいいんだ」という方々には、ぜひ『「最強のサービス」の教科書』や『日経ビジネス』の「敗軍の将、兵を語る」のコーナーを読んでいただきたいし、また結果をいろいろな時間軸で考えてみていただきたいな、と思う次第です。



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