2014年8月9日土曜日

少年整備兵がみた出撃前夜の特攻隊員たち

 平和への祈りと鎮魂の季節がやってまいりました。個人的には、この時期がちょうど盂蘭盆会にあたることに救いみたいなものを感じます。

 もうずいぶん前のことになりますが、太平洋戦争末期に特攻基地で整備兵をしておられた方のお話をうかがう機会がありました。

 これまであまり人に話したことはありません。英霊を貶めるたぐいの話では決してないけれど、なんとなく話のネタにするのが畏れ多い気がしたからです。

 今回も、書こうか書くまいか迷いましたが、私だけの記憶にとどめるのはやはり勿体ないと、綴っている次第です。

 万一、お話下さった方にご迷惑がかかってもいけないので、どのような機会にどこでお話をうかがったかは伏せさせていただきます。また、うかつにもその方の所属部隊がどこだったかをお尋ねしませんでした。

 以下は、その方にうかがった内容です。


 特攻出撃の命令は、前日にわかるんや。

 その晩、出撃する隊員の食事はな、折り詰めに普段目にせんようなご馳走が盛られちょった。淡雪(注)もあったな。ビールも。もう二度と帰って来ん人たちへのせめてもの心づくしやったんやろうな。

 でも、みんな食べんのよ。つつくだけ。それはそうや、喉を通らんやろうな。ビールをラッパ飲みする人もおったけど、見ると喉が鳴ってない。飲んでないんや。ただビールが胸元をぬらすだけ。

 折り詰めに大量の料理を残したまま寝てしまうのが常やった。あんたは意地汚いと思うかもしれんけど、わしはそこにこっそり忍んで行って、食べ残しを貪り食ってた。ろくなもん食べてなかったからな。淡雪がほんと美味かった。

 飛行機に吊るす爆弾は、普通は操縦席の引き柄をひくと投下されるもんじゃが、特攻機は違った。ボルトでぎりぎりに締め上げて固定してしまうんや。飛び立ったらもう(爆弾の重量で)着陸できんようにするわけや。

 特攻機には必ず護衛の戦闘機が付いた。ある地点まで護衛したら引き返してくるはずなのだが、ただの一機も帰ってきたのを知らない。途中で敵機に撃ち落とされたのかもしれんし、あるいは燃料が尽きるまで特攻機と運命をともにしたのかもしれん。

 隊舎の横で、チャボを飼っている隊員がいた。律義に卵を産むチャボを可愛がっていたが、出撃が決まった日、彼はチャボを全部拳銃で撃ち殺してしまった。どんな気持ちだったんやろう。(私が「そんな振る舞い、上官が咎めないんですか」と訊くと)咎める人なんか誰もおらん。明日には英霊になる人たちなんやけん…。

(注)淡雪は、メレンゲを使ったムース状の寒天菓子。九州ではおせち料理に欠かせない定番である。この方にとって、淡雪は当時、ご馳走の象徴だったようで、淡雪のことは何度も話にでてきた。



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