2013年2月20日水曜日

零戦と経営革新


 旧日本海軍の三菱零式艦上戦闘機(零戦)は、高い運動性と重武装、長大な航続距離を併せ持った優秀機でした。熟練搭乗員に恵まれたこともあって、大戦緒戦期には敵を寄せ付けない圧倒的な強さを発揮したと言われています。
 徹底的な軽量化の追求が生んだイノベーションの産物といってよいでしょう。

 しかし、アメリカ海軍も、手をこまねいていたわけではありません。
 零戦に対抗できる新型機の実用化を急ぐ一方、性能の劣るグラマンF4ワイルドキャット戦闘機を二機ペアで運用する戦法(一機がオトリになって逃げ、もう一機が追撃する零戦を背後から襲う)を編み出し、次第に零戦に損害を強いるケースが増えていったようです。
 そして、日本側はこのことに終戦まで気づきませんでした。

 このエピソードを紹介する、鈴木博毅『「超」入門 失敗の本質-日本軍と現代日本に共通する23の組織的ジレンマ』(ダイヤモンド社)は、戦略とは「目標達成につながる勝利とつながらない勝利を選別し、目標達成につながる勝利を選ぶこと」と規定します。

 そして、戦略の違いは「追いかける指標の違いに由来し、その指標の有効性(目標達成につながる指標である度合い)が戦略の優劣を決める」と述べます。

 さらに「たまたま勝利することがあっても、指標を認識しない勝利は継続できない。再び偶然の発見に依存しなければならないからである。」と、体験的学習の積み上げによる成功を成功例と呼び、成功要因をクリチカルに特定しようとしない、日本企業の文化を厳しく指弾しています。

 戦略を「以前の成功体験をコピー、拡大生産すること」であると誤認すれば、環境変化に対応できない精神状態に陥る、と言うのです。

 「追いかける指標の違い」は、ゲームのルールをいやおうなく変えていきます。さきのエピソードに即して言えば、空戦の勝負は「単機対単機の性能と技量で決まる」ものであったところに、アメリカ軍は「フォーメーションで勝つ」という新しい発想―モノによらないイノベーション―を持ち込みました。同書は、これを「ゲームのルールを変えたものだけが勝つ」と表現しています。

 「体験的学習の積み上げによる成功を成功例と呼び、成功要因をクリチカルに特定しようとしない」という同書の指摘は、いまの中小企業支援の在り方にそのままあてはまる気がします。

 たとえば、いまの経営革新の取り組みの多くは「魅力ある新メニュー(製品)の投入」のような、モノに着目したものです。これが私には「敵よりも優秀な戦闘機を開発する」ことのみを志向し、「戦い方が変わったことに気づかなかった」かつての日本海軍の姿とダブって見えてなりません。

 わが方がことを企てる間、敵が黙って待っていてくれるわけはありません。「魅力ある新メニューの投入」という経営政策をすべてのライバルが掲げ、同じような手段と熱心さで取り組んだとしたら、競争の枠組みは当方に有利に変わるのでしょうか?

 否、かりに「魅力ある新メニューの投入」が成功要因であるとして、これまで「魅力ある新メニューの投入」ができてこなかったのはなぜなのでしょうか。改革のポイントは、むしろその原因を除去することにあるのかもしれないし、除去困難なものなら他の文脈での勝利を目指すのが至当ではないのでしょうか。
 百歩譲って、新メニューが大当たりしたとしても、企業に「魅力ある新メニューの投入」をなしうる素地が育っていなければ成功は一過性のものに終わるでしょう。

 飲食店の成功要因=「魅力ある新メニューの投入」のような、硬直的・単眼的発想こそ、旧態依然たる「指標」を追いかけるものであり、他の誰かが「ゲームのルールを変える」ことを許すものと言えないでしょうか。



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