2012年3月30日金曜日

鑑定評価書が果たし得る機能とユーザーニーズとのギャップ

 鑑定評価書が、価格を表示するだけの書類とユーザーに認識されている結果、鑑定評価額がユーザーの都合にあうことや、料金が安いことだけに関心が置かれがちであるとの指摘があります。

 鑑定評価書の有する(または果たすべき)機能は何か、それを社会の共通認識とするためにいかに啓蒙活動を展開するかは、いずれも非常に重要な論点ですが、それは別項に譲るとして、ここでは、「鑑定評価の依頼者は、適正な価格を表示する『お墨付き』として以外に、鑑定評価書をどのように活用しうるのか?」という点について考えてみたいと思います。

 先日、ある企業から、メイン金融機関を通じて次のようなご相談がありました。
 新たな事業拠点設置のために不動産の購入を検討している由(鑑定評価書も入手している)で、ついては、
 ①当該物件にはどのようなリスク要因や懸案事項があるだろうか。
 ②当該物件の利用に当たり、上記の懸案事項はどのように解決すればよいか。
 ③当社の成長戦略に照らし、当該物件をどのように活用するのが妥当か。
について支援を要請されたのです。

 上記相談事項のインプリケーションとしては、次のようなことが挙げられます。

 まず第一に、鑑定評価書に当該物件のリスク要因や懸案事項が記載されているとしても、それを一般のユーザーが読み取るのは至難の業だということ(本件でも相談者は対象物件の極めて重要な特性について理解しておられませんでした)。

 第二に、通常は鑑定評価書は、対象物件に係る懸案事項をどのように解決すればよいかまでには言及していないこと。

 第三に、鑑定評価書は、想定される一般的需要者を念頭に記述されているため、特定の主体の経営政策に照らしてどのような利用が最有効かを示唆するものではないこと(ここでは不動産鑑定士が、経営政策を把握し、それとの整合を図りうるための知見を有するかどうかはひとまず置くこととします)。

 上記のような鑑定評価書が果たし得る機能とユーザーニーズとのギャップに着目することは、
 ①かかるギャップを埋めるべく鑑定評価書の機能的充実を図り付加価値を高める、②鑑定評価書の二次的需要としてコンサルティングレポートの売り込みを図るなど、不動産鑑定評価書の重要性のアピールや不動産鑑定士の職域拡大につながる取り組みの端緒になるのではないかと考えています。
 (2011.6.19)

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