私の母は、話が長いです。昔からそうだったかは記憶にありませんが、最近は例えばこんな調子です。
『ブロッコリーが上手くできたから、持って行ってあげようと思うんだけど。今年は去年の二倍植えてみたけど、うまく出来たのよ。三時まで中国語会話の教室で、それから野村さんがちょっと家に寄ってくれって言うので、まあ三十分ほどだと思うけど、一時間はかからないと思うけど、それからだから、五時くらいに持って行くね、いや四時半かな、五時半かな。』(実際はこの二倍くらい長いです)。
この話の中で、聞き手の私にとって意味のある情報は、「家庭菜園のブロッコリーがおいしく出来たので、今日の夕方五時前後に持ってきてくれる」ということだけです。
親子の日常会話なら、まあ笑って済ませばいいことですが、ビジネス・プレゼンテーションがこんな感じではそうはいきません。
中小企業の経営者の方々は、さまざまな局面で「事例発表」を求められます。私たち中小企業支援に携わる者もまた同様です。
例えば、それは審査員の前でビジネスプランの魅力を競うことであったり、一般参加者の前でお店や商品の魅力をアピールしたり、他の中小企業経営者や支援機関職員・専門家の方々の前で取組み内容を説明したりすることだったりします。
このような事例発表を聞いた中小企業経営者らから、「熱意や勇気には学びたいが、他業界のことなので、取り組み内容それ自体はあまり参考になるところがなかった」という声が聞かれることは少なくありません。そういう人々を「いや、事例をコピーペーストすることが学びではない。意識が低すぎるよ。」と批判することは簡単ですが、ひるがえって事例発表する側には反省すべき点はないでしょうか。
端的に言えば、事例の発表は、プレゼンテーションの趣旨目的と相手(聞き手)の立場を慮って行わないと「単なる成功譚・体験談」に終わってしまいかねません。
より噛み砕いていえば、聞いた人にどのような感想を持ってもらえば成功か、をあらかじめイメージしておき、それに適うような組み立てで話をすべきだということです。
例えば、「新製品の投入」を中心テーマに掲げる経営革新事例を想定して考えてみましょう。
プレゼンテーションの趣旨目的が、一般消費者に対して、その新製品の魅力を訴えるところにあるのならば、「新製品はどのようなものか」「従来品や他社製品よりどう優れているか」「どこで買えるか」「評判はどうか」などに焦点をあわせてお話をすべきでしょう。
しかしながら、中小企業経営者に対して経営革新計画への取り組み事例として話をするのならば、組み立ては大きく変わります。すなわち、どんな新製品を発売したかを詳細に語るよりも、自社の保有資源のどこに着目して、複数の代替案の中からなぜそれを選んで、どのようなプロセスを描いたか。それを実践する過程ではどのような問題が発生し、それに対応してどう軌道修正したか、にウエイトが置かれるべきでしょう。
聞き手に期待する反応行動は、一般消費者の場合は「あっ、その商品欲しいな、お店で手に取って見てみよう」であり、中小企業経営者の場合は、「よし、当社もあのような手順を踏んで、新しい取り組みに一歩踏み出そう」というようなことです。
これら両者において、同じプレゼンテーションが行われていいはずはありません。
「お客様本位」を謳うなら、まずはプレゼンテーションからだと思います。
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