2012年3月30日金曜日

金づちしか持たないものには釘しか見えない

 ネット販売などで目にすることも多くなった無農薬リンゴ。先日も、青森県弘前で無農薬リンゴの栽培を20年続けているという生産者の木村秋則氏がテレビに出演されていました。

 この無農薬リンゴを目にするたびに思い出すことがあります。


 もう20年近くも前、まだインターネットは一般的でなかったパソコン通信全盛の時代ですが、ニフティサーブに農業について語るコーナーがありました。そのコーナーでは生産者と消費者の意見交換などが行われていたのですが、あるときユーザーからリンゴ栽培について質問が寄せられました。内容は概略、『果樹栽培を手がけてみたいのだが、これまでリンゴの無農薬栽培など身近に聞いたことがない。どなたか無農薬リンゴの栽培を手掛けておられる方がいたらご教示いただきたい』というようなものであったと記憶しています。

 回答はすぐに寄せられました。『専門家なら常識のように誰でも知っていることですが、リンゴはきわめて病気に弱いので無農薬栽培などありえないのです』。まるで『だから素人は困る』と言わんばかりのものでした。このやりとりは、『ありがとうございます。やはり無理なのですね。』と終わるはずでしたが、ここでは終わりませんでした。『私は無農薬リンゴの栽培をもう何年もやっている。具体的には…』という別の回答が寄せられたからです。この後のやりとりについては記憶があいまいですが、『無農薬栽培などありえない』と言った先の回答者の発言はもうなかったのではないかと思います。

 私は「金づちしか持たないものには釘しか見えない」「人間は自分は偉いと思ったとたんにバカになる」という言葉が好きです。前者は、経験や知識が不足していると視野が狭まり問題解決策を見出しにくくなること、後者は、虚心坦懐に考えたり他人から学ぶ謙虚さを失うと判断を誤ることを戒めた警句だと理解しています。

 巷間『○○の専門家』を自認する人々の中には、素人の意見を即座に全否定する人もいるし、素人にも「専門家がこう言っていた」とその無謬性を疑わない人もいますが、このような人を見るたび、前掲の警句を思い出して自らへの戒めとしています。
 中小企業診断士などの専門家による支援に、最も求められていることも、「金づち以外の道具」=「その業界には従前なかった知見」でもって「真の課題や改善テーマに対する洞察」を示すことなのではないのか、と。
 (2011.8.20)

0 件のコメント:

コメントを投稿