2013年5月19日日曜日

月1,500円からの読書生活術(3)


 今回は、「ステップ3;探した本を読む」について書きます。と言いつつ『本は「必ずしも」読まなくていい』話からスタートするのですが…。

■ 本は「必ずしも」読まなくていい

 小学校一年生の時、手に取った「しろいきば」という本があまり面白くなかったので、すぐ書架に返そうとしたら、担任の三浦先生に「さいごまで読んでからにしなさい」と叱られました。
 もちろんこれは、「最後まできちんとやり遂げる」ことを習慣づけるためのご指導だったのでしょう。でも、私たち大人は、「買った本はさいごまで読む」などという掟を自らに課す必要はないと思います(これは多くの識者も言われていることです)。面白くなければ途中でやめればいいのです。

■ どんなクズ本にも気づきはある

 反面、私は「どんなクズ本にも気づきはある」とも思っています。クズ本であることを念頭に読むと、それなりの気づきはあるものです。例えば、「クズ本のクズ本たるゆえんを探していく」作業というのは、それなりに楽しいし、自らの反省材料になることも少なくない(このブログのように、くだらないことを得々と書き綴ることが他人からどう見えるか等)ように思います。

■ 本は並べているだけでも意味がある

 明治大学教授の齋藤 孝さんが「本は、背表紙を眺めるだけでも大きな気づきがある」という趣旨のことを述べられていました。「本を買っただけで読んでない」などということを負担に思う必要はまったくないと思います。「必要なときにいつでも書をひも解くことができる環境を整備しているのだ」という認識で本を探し、入手しておけば、それで目的の半分はすでに達しているのではないでしょうか。

■ 私なりの読み方1『つまみ読み』

 私の場合、最初から本を読み進めることはほとんどないような気がします。
 いちばん多いのは、「まえがき」ないしは序章の記述からその本のハイライトと思われる章や、目次をみて興味をひかれた項目を適当につまむような読み方、名付けて『つまみ読み』です。
 『つまみ読み』しただけで終わりのこともあれば、あらためて第一章から取り掛かることもあります(小説などはいうまでもなく最初から読んでいますが)。
 稀に、「まえがき」を読むと第一章に進まないではいられないようなすぐれた著作にめぐり会うことがあります。最近読んだものの中では、西股総生 『戦国の軍隊: 現代軍事学から見た戦国大名の軍勢』がまさにそのような本でした。
 同書はまず第一章で、秀吉の小田原征伐の前哨戦である山中城攻めを、豪傑渡辺勘兵衛覚書を主人公に辿り、そこから「きわめて組織的な鉄砲戦術と、手柄第一の個人プレーという相反する要素にどのように折り合いを付けたのか?」という本書全体を通じての問題意識を提示しています。つまみ読みをするにはしのびない名著です。
 
■ 私なりの読み方2『尻から読み』

 一般に書物は、最初の数章を本論の前提説明に充てることが多いように思います。
 たとえば業務改善をテーマにする本があるとすると「業務改善とは何か」「我が国の製造業におけるカイゼン運動の現状」といった内容がしばらく続くわけです。
 初学者なら、それによって業務改善について知識を得ることができ、ひいては後半の本論部分の理解の一助になっていくのでしょうが、ある程度、業務改善について理解していて、アドバンスなヒントがほしい読者であれば、いきなり本論にあたったほうが効率的だし、集中力も持続しやすいといえます。
 このような発想から、私は「まえがき」「あとがき」「本論部分(たとえば第五章)」の順に読んで、必要に応じ前半に戻る、という読み方をすることが多いです。

■ 私なりの読み方3『メモ読み』

 本を読み進める過程では、いろんな感想やアイデアが浮かぶことがありますが、その場で書きとめておかないと、あとから思い出すのはまず不可能です。
 私は、考えが浮かぶ都度、本を傍らに置き、iPadにメモしています。

■ マーカーで次回参照をしやすくする

 このフレーズいいな、ここは重要だな、と思った箇所には、ぜひともマーカーで印をつけておくべきだと思います。通読した後、ポイント箇所だけを振り返ることが非常に楽になります。
 その意味でも、本は購入して自分のものにしておきたいものです。図書館で借りた本にマークするわけにはいきませんから。
 法学部の学生の頃、論点はピンク、自説はオレンジ、その理由づけは黄色、というように色分けしてマークしていました。「何に関する記述か」を見える化するひとつのアイデアだと思います。

■ 105円で雑書を読む楽しみ

 プロパーの価格なら購入に二の足を踏むような本でも、105円なら気軽に買えます。これならお風呂に持ち込んで湿気でヨレヨレになっても気にすることはありません。
 湯船につかりながら本を読むと、つい読書に集中し、気が付くと入浴効果も上がっているという付随効果もあります。
 読書に十分な明るさが確保できるよう、電球を明るいタイプのものに取り換えるとよいと思います。

 次回は、「ステップ4;読んだ記録を残す」について書きます。





2013年5月10日金曜日

メディア・リテラシーを担保するネットメディア


 先般、安倍総理の次のような発言が報じられました。
『なかなか私たちがこれは伝えたいと思ったことが、テレビのニュースではカットされたり、新聞ではまったく取り上げられないということが多いものですから。』

 この発言から、『私は直接国民に話したい。(新聞記者は)帰って下さい。』と言った佐藤栄作元総理を連想する人は少なくないでしょう。
 この佐藤元総理のエピソードは、くだんの発言を受けて『じゃ、出て行こう。』と会見場を去った新聞記者たちの矜恃を称えるとともに、意に沿わない報道機関は排除しようとする老政治家の頑迷さを皮肉るニュアンスで引用されることが多かったように思います。
 でも、私は今回の安倍総理の発言に、違った感想を抱きました。近年、ネットメディアの台頭により、報道機関が必ずしも国民の知る権利に奉仕しないケースがあることにさまざまな局面で気づかされるようになったからだと思います。

 前の大戦では、戦績を誇張した「大本営発表」がなされ、戦争被害や敗走等の不都合な情報の多くは発表されませんでした。その反省に立って、戦後国民の知る権利を支えるものとして、報道の自由には大きな配慮が払われてきたわけです。
 報道の自由は、当然に編集の自由を含むわけで、それゆえ私たちはこれまで、報道機関が報じることを「事実」と受け取ってきました。
 しかし、私たちは今や、報道機関が報じる必要を感じない(報じたくない)情報にも触れることができます。ネットメディアは、報道機関が切り捨てた情報をテレビや新聞以上にスピーディーに、あまねく拡散する力を持ちました。しかも、そこでは「報道機関が切り捨てた」こと自体が大きなニュースバリューを持ちます。
 むかし、旧ソ連体制を皮肉った次のようなジョークがありました。


 ニクソンとブレジネフがふたりで駆けっこをした。
 その結果をソ連共産党機関紙プラウダは次のように報じた。
 『ニクソンはビリから二番目だった。同志ブレジネフは二位入賞を果たした。』

 このジョークで、プラウダは事実を正確に伝えています。しかし、読者を誤った解釈に誘導する意図があったことは明白でしょう。
 ジョークだと思っていたことが現実に、しかもしばしばあることを知るにつけ、ネットメディアそのものが、既存メディアに対するリテラシーの担保になっている、ということをあらためて意識させられるこの頃です。(写真は本文と関係ありません)


2013年5月7日火曜日

月1,500円からの読書生活術(2)


 前回は、「ステップ1;読む本を選ぶ」について述べました。
 これに引き続き、今回はステップ1でリストアップした本を探し、入手する「ステップ2;選んだ本を探す・買う」について書きます。

■ 本の入手検討は「7段階」

 私は、おおむね後掲のチャートのように7段階の検討を経て本を入手しています。
 月1,500円で充実した読書生活を送るためには、勝間和代さんのように「目についた本はどんどん買う」ことは許されないからです(笑)。

第一段階;まずは図書館で借りてみよう

 一読すれば済む本や、まず一度目を通してみたい本は、図書館で借りてみましょう。借りられる期間は通常二週間ほどですから、これをペースメーカーに読み進めてもいいし、返却期限までに読み切れなくても、また借りれば済むこと。気楽に借りましょう。
 学術書など数千円もする本は、購入に二の足を踏んで当然です。まず借りて読んでみて、手元に置いておく価値ありと判断してから購入しても遅くありません。
 では、お目当ての本が図書館になかったらどうするか。まず類書に目を通してみましょう。1、2か月待ってもよいなら図書館に購入リクエストするのもよい方法です。

第二段階;ブックオフオンラインを活用しよう

  ブックオフのお店にはよく行きます。掘り出し物が見つかることもあり、楽しいです。でもよほどのベストセラーでない限りお目当ての本を探すのには向いていません。
 この点、ブックオフのオンライン店舗である「ブックオフオンライン」なら、お目当ての本を即座に検索・購入できますし、もし在庫がなくても、入荷したらメールで知らせてくれるよう登録もできるので便利です。なお、配送料は一回350円ですが、1,500円以上なら配送無料となります。
 意外と知られていないのは、ブックオフオンラインで新本も買えるということ。新本と古本を組み合わせて1,500円以上にする手もあります。

第三段階;Amazonの前にAmazonマーケットプレイスをチェック

 お目当ての本がブックオフオンラインになかったら、新本を買う前に一度、Amazonマーケットプレイスを覗いてみましょう。
 Amazonマーケットプレイスは、中古品やレア物などを利用者間で売買できる場で、出店型出品者が「出店」という形で商品を販売するAmazon内のショッピングプレイスでもあります。Amazon各商品の詳細ページの「こちらからも買えますよ」ボックスに表示される「X点の新品/中古品を見る」のリンクをクリックすると、出品商品を見ることができます。1,500円以上なら通常配送無料となるAmazonと違って、書籍一冊当たり250円の送料が商品代金に加算されます。
 絶版となった本も出品されているので、どうしても入手したい絶版本がある場合にも重宝します。例えば、ロバート・アンソニーの古典的名著『経営管理システムの基礎』 (高橋吉之助訳・1968年)も、マーケットプレイスならばクリックひとつで買うことができます(価格は出品者によって異なります)。

第四段階;やっぱり書店で手に取ってみるのがベスト

 ここでようやく新本を取り扱う書店が登場します。書店でパラパラと内容をチェックしてみて「これは欲しいな!」と思えれば、買うに機は熟していると判断していいでしょう。
 編集者の松岡正剛氏は、「読書の達人は、買うときにはすでに一度読んでしまっている」と言われたそうです。達人ならずとも、書店に行けば買った冊数の何倍かの本を手に取って、買うだけの価値があるかどうかの判断をつけているのではないでしょうか。

第五段階;Amazonでさがす
第六段階;その他のオンライン書店でさがす

 書店になくともAmazonその他のオンライン書店ならたいていのモノは手に入ります。
 Amazon以外にも、楽天ブックスやセブンネットショッピングなど様々なサービスが提供されていますが、このうちセブンネットショッピングは、セブンイレブン店舗で受け取るなら1,500円未満でも送料無料となる点特筆されます。

第七段階;最後の手段・図書館の取り寄せサービスを利用しよう

 それでも手に入らない品切れ・絶版本などは、前出のAmazonマーケットプレイスで購入する手もありますが、必ずしも手元に置いておけなくてもよいなら、公立図書館の取寄せサービスを利用することをお勧めします。
 私自身も、最寄りの大分県立図書館で、二度取寄せサービスを利用しました。ちなみに大分県立図書館が提供しているサービスは、お目当ての本を在庫している他の図書館から借り受けてくれるというもので、利用者は本の送料を負担することになります。

さて次回は、「ステップ3;探した本を読む」について書きたいと思います。


 

2013年5月5日日曜日

「相手本位」のプレゼンテーション


 私の母は、話が長いです。昔からそうだったかは記憶にありませんが、最近は例えばこんな調子です。

 『ブロッコリーが上手くできたから、持って行ってあげようと思うんだけど。今年は去年の二倍植えてみたけど、うまく出来たのよ。三時まで中国語会話の教室で、それから野村さんがちょっと家に寄ってくれって言うので、まあ三十分ほどだと思うけど、一時間はかからないと思うけど、それからだから、五時くらいに持って行くね、いや四時半かな、五時半かな。』(実際はこの二倍くらい長いです)。

 この話の中で、聞き手の私にとって意味のある情報は、「家庭菜園のブロッコリーがおいしく出来たので、今日の夕方五時前後に持ってきてくれる」ということだけです。
 親子の日常会話なら、まあ笑って済ませばいいことですが、ビジネス・プレゼンテーションがこんな感じではそうはいきません。

 中小企業の経営者の方々は、さまざまな局面で「事例発表」を求められます。私たち中小企業支援に携わる者もまた同様です。
 例えば、それは審査員の前でビジネスプランの魅力を競うことであったり、一般参加者の前でお店や商品の魅力をアピールしたり、他の中小企業経営者や支援機関職員・専門家の方々の前で取組み内容を説明したりすることだったりします。

 このような事例発表を聞いた中小企業経営者らから、「熱意や勇気には学びたいが、他業界のことなので、取り組み内容それ自体はあまり参考になるところがなかった」という声が聞かれることは少なくありません。そういう人々を「いや、事例をコピーペーストすることが学びではない。意識が低すぎるよ。」と批判することは簡単ですが、ひるがえって事例発表する側には反省すべき点はないでしょうか。

 端的に言えば、事例の発表は、プレゼンテーションの趣旨目的と相手(聞き手)の立場を慮って行わないと「単なる成功譚・体験談」に終わってしまいかねません。
 より噛み砕いていえば、聞いた人にどのような感想を持ってもらえば成功か、をあらかじめイメージしておき、それに適うような組み立てで話をすべきだということです。

 例えば、「新製品の投入」を中心テーマに掲げる経営革新事例を想定して考えてみましょう。
 プレゼンテーションの趣旨目的が、一般消費者に対して、その新製品の魅力を訴えるところにあるのならば、「新製品はどのようなものか」「従来品や他社製品よりどう優れているか」「どこで買えるか」「評判はどうか」などに焦点をあわせてお話をすべきでしょう。
 しかしながら、中小企業経営者に対して経営革新計画への取り組み事例として話をするのならば、組み立ては大きく変わります。すなわち、どんな新製品を発売したかを詳細に語るよりも、自社の保有資源のどこに着目して、複数の代替案の中からなぜそれを選んで、どのようなプロセスを描いたか。それを実践する過程ではどのような問題が発生し、それに対応してどう軌道修正したか、にウエイトが置かれるべきでしょう。

 聞き手に期待する反応行動は、一般消費者の場合は「あっ、その商品欲しいな、お店で手に取って見てみよう」であり、中小企業経営者の場合は、「よし、当社もあのような手順を踏んで、新しい取り組みに一歩踏み出そう」というようなことです。
 これら両者において、同じプレゼンテーションが行われていいはずはありません。
「お客様本位」を謳うなら、まずはプレゼンテーションからだと思います。