2014年8月22日金曜日

甘えん坊の美点

下川式成功手帳の発案者であるしもやん(下川浩二)という方の講演を聴いたことがあります。
講演の半ば、彼はわれわれ聴衆に向かってこう問いかけました。
 『みなさん、人生でいちばん大事なことは何やと思いますか?』

人生でいちばん大事なこと…私も考えてみました。
正直であることか?一生懸命にやることか?友達を大切にすることか?はたまた健康か?
どれも大事なことだけど、決定的ではない気がしました。月並み過ぎるというか…。

しもやんが提示した答えは、もっと腑に落ちるものでした。

彼はこう言ったのです。
 『人生でいちばん大事なこと、それはな、人から好かれることや。』
そして、こう続けました。
 『人から好かれるのはな、素直な人や。人の話を素直によく聴く人や。』

そういえば、ある業界の重鎮の方から、こんな話を聞いたことがあります。
 『相手に疎まれたり、嫌われたりしてまで苦言を呈するほどお人好しではないよ。』
 『ひとの意見を聞く姿勢のない者には、二度と意見することはない。』

どうも、彼から助言をもらう機会を永遠に失った人は何人もいるようです。
思うに、失ったのは「助言をもらう機会」だけではないのではないかと…。

「人の話を素直に聞けない人」は、こんな反応をしがちです。

 スルー型:『ご助言ありがとうございます。』と口では言いつつ、書きとめようとも、話題にしようともしない(メモする姿勢を見せたかどうかで、相手の提供情報の質が変わる、ということはしばしばあります)。

 肯定型:『そうなんですよ!』と肯定的な相槌をうちつつ、後に言い訳が続く(そんなことは言われなくてもわかってる、ということなのでしょう)。

 甘え型:(いろいろ言い訳した後に)『どうかご理解ください』『温かく見守ってください』(口を出さず賛意だけ示せということか?)

 逆ギレ型:いわずもがなでしょう。

しかし、次のような言い方(受け止め方)に変えると、相手に与える印象も会話の展開も、大きく違ったものになるのではないでしょうか。

 『いや、私も△△と○○のトレードオフに悩みまして、当面の措置としては○○を重視する選択をしたのです。あなただったらどうお考えになりますか?』

猫は、人の膝に乗るのが上手です。いまだったら膝に乗っても問題ない雰囲気を読み取って膝に乗ってきます。

甘えるのが上手い人も似たようなところがある気がします。じつにいい感じで相手の懐に入っていくフィーリングを身につけているのです。

逆に、甘えるのが下手な人は、他人との距離を縮められなかったり、反対に相手が不快に感じるくらいTPOを選ばない距離感の縮め方をしているように思われます。

幼少期から無意識に身に付けた対人関係能力の差もあるのかもしれませんが、虚勢を張っていたり、他人からの批判を過剰に恐れたりすると(そしてそれは自己肯定感の不足が根っこにある気もします)、他人に甘え、他人に甘えられる相互関係が築きにくくなるように見えます。

そう考えると、ある種猫に近い感覚を身につけたかのような甘えん坊の我が子を見ていると、それも一種の才能とも思えてくるのです。










 








2014年8月9日土曜日

少年整備兵がみた出撃前夜の特攻隊員たち

 平和への祈りと鎮魂の季節がやってまいりました。個人的には、この時期がちょうど盂蘭盆会にあたることに救いみたいなものを感じます。

 もうずいぶん前のことになりますが、太平洋戦争末期に特攻基地で整備兵をしておられた方のお話をうかがう機会がありました。

 これまであまり人に話したことはありません。英霊を貶めるたぐいの話では決してないけれど、なんとなく話のネタにするのが畏れ多い気がしたからです。

 今回も、書こうか書くまいか迷いましたが、私だけの記憶にとどめるのはやはり勿体ないと、綴っている次第です。

 万一、お話下さった方にご迷惑がかかってもいけないので、どのような機会にどこでお話をうかがったかは伏せさせていただきます。また、うかつにもその方の所属部隊がどこだったかをお尋ねしませんでした。

 以下は、その方にうかがった内容です。


 特攻出撃の命令は、前日にわかるんや。

 その晩、出撃する隊員の食事はな、折り詰めに普段目にせんようなご馳走が盛られちょった。淡雪(注)もあったな。ビールも。もう二度と帰って来ん人たちへのせめてもの心づくしやったんやろうな。

 でも、みんな食べんのよ。つつくだけ。それはそうや、喉を通らんやろうな。ビールをラッパ飲みする人もおったけど、見ると喉が鳴ってない。飲んでないんや。ただビールが胸元をぬらすだけ。

 折り詰めに大量の料理を残したまま寝てしまうのが常やった。あんたは意地汚いと思うかもしれんけど、わしはそこにこっそり忍んで行って、食べ残しを貪り食ってた。ろくなもん食べてなかったからな。淡雪がほんと美味かった。

 飛行機に吊るす爆弾は、普通は操縦席の引き柄をひくと投下されるもんじゃが、特攻機は違った。ボルトでぎりぎりに締め上げて固定してしまうんや。飛び立ったらもう(爆弾の重量で)着陸できんようにするわけや。

 特攻機には必ず護衛の戦闘機が付いた。ある地点まで護衛したら引き返してくるはずなのだが、ただの一機も帰ってきたのを知らない。途中で敵機に撃ち落とされたのかもしれんし、あるいは燃料が尽きるまで特攻機と運命をともにしたのかもしれん。

 隊舎の横で、チャボを飼っている隊員がいた。律義に卵を産むチャボを可愛がっていたが、出撃が決まった日、彼はチャボを全部拳銃で撃ち殺してしまった。どんな気持ちだったんやろう。(私が「そんな振る舞い、上官が咎めないんですか」と訊くと)咎める人なんか誰もおらん。明日には英霊になる人たちなんやけん…。

(注)淡雪は、メレンゲを使ったムース状の寒天菓子。九州ではおせち料理に欠かせない定番である。この方にとって、淡雪は当時、ご馳走の象徴だったようで、淡雪のことは何度も話にでてきた。