2012年12月9日日曜日

森の専門家たちの寓話


「あのう。少しの間、その焚火で暖まらせてもらえませんか?」 
 
マーシャは、背の高い「専門家」に話しかけました。
 
その「専門家」は言いました。
 
「いいよ。娘さん。それにしても、こんな吹雪の森に、たった一人で何をしに来たのかね…?」 
 
「あのう…マツユキ草を探しに…でないと、私は家には入れてはもらえないの…」

「娘さん、きみには色々と大変な事情があるようだね。よーし、分かった。その願いを叶えてあげようじゃないか。」
  
「専門家仲間の皆、どうだろう?」
 
「私達はかまいませんよ。専門家だから!」
 
まず最初に、「気候をコントロールする専門家」がその手に持つ杖を一振りすると…

降りしきる雪は止み、冷たい風は少しずつ暖かいものになっていきました。

次に「花を咲かせる専門家」が春の歌を歌うと、色とりどりの春の草花が咲き乱れ始めました。

さらに「花摘みの専門家」が手のひらを広げると、持ち切れないほどのマツユキ草が。 

「専門家のみなさん、どうもありがとう!ほんとうにありがとう!」
 
しばらくして、専門家たちは、マーシャの訃報に接しました。親に虐待された末の衰弱死だったということです。

仲間のうちのひとり、背の高い「専門家」がつぶやきました。

「僕らがしてあげるべきことは、マツユキ草を摘むことだったのかな?」

即座に別の「専門家」が言いました。

「クライアントの要請は、マツユキ草を摘むことで、僕らは成果をあげ、クライアントに喜ばれた。それでいいじゃないか。」

もうひとりがいいました。

「そうだよ、それを生かすかどうかはクライアントの力量。あの娘さんは寿命だったということさ。」

それを聞いて、背の高い「専門家」はもう一度つぶやきました。

「そうなのかなあ、どこか違うような気がしてならない…。」  (おしまい)




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