2012年11月1日木曜日

ポスト桃太郎の寓話


 桃太郎の鬼退治から三年。

 一躍時の人となった桃太郎が朝廷にスカウトされて京の都に去ると、鬼が島ではふたたび鬼たちが悪さをはじめ、村人たちはみんな困っていました。『桃太郎二世が出てこないものか…』村の長老たちは鳩首協議の結果、鬼退治のためのすぐれたプランを持つ者に、軍資金としてキビ団子30個を無料支給することにしました。

 このニュースに『こりゃいいや…』とほくそ笑んだのは、かつて桃太郎のお伴をした経験のある猿でした。彼は、犬とキジを『うまい儲け話がある』と仲間に引き込み、鬼退治コンサルタントとして活動をスタートしました。とはいえ、鬼の怖さは誰よりも理解している猿のこと、また鬼が島に行く気などさらさらなかったのです。

 彼は、いい仕事もなく暮らしに困っている村の若者たちに『私と組めば、キビ団子30個がタダで手に入る。キビ団子は山分けな。』と持ちかけました。

 それからしばらく。「おお、何と頼もしい…」村の長老たちは喜びの声をあげました。なぜなら、村の若者たち十数人が『われこそ鬼退治に!』と名乗りをあげたからです。

 ある若者は、『これまで村人たちは力で優る鬼たちに無策で立ち向かった。でも私には秘策があります。』と言いました。
 別のある者は、『オニイラズという毒まんじゅうを開発します。これで鬼たちを一網打尽にします。』と胸を張りました。
 さらに別の者は、『猿や犬たちと勉強会を続けてきた私の思いを汲んでほしい。私の目を見てください。』と叫びました。

 さて、彼らに軍資金としてキビ団子が支給されて半年。長老たちは若者たちの誰一人として鬼が島に向かおうをしないことを訝しく思いはじめました。
 問い詰めると、彼らの言い分は、『私の秘策が模倣されないよう、まず知的所有権保護の手続きを進めています…』『オニイラズの開発費が思った以上に掛って、船が調達できない…』『なかなかお供が揃わなくて…』『本業が忙しくて時間が取れない』。
 長老たちは、『その程度のリスク要因は、計画に織り込み済みではなかったのかっ!』と詰りましたが、後の祭りです。

 その後も、彼らのうちの誰かが鬼退治に向かったという情報は寡聞にして知りません。
 風の噂では、この村の若者たち、こんどは『かぐやひめを月に返さないすぐれたプランを持つ者に必要な資金を助成する』という企画に応募しているとのことです。(おしまい)





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