2012年6月11日月曜日

ひとは話のどこを聞いているか


会社の営業支援システム導入を主導し、定着させ、営業部門の生産性向上に貢献した社員がいるとします。その直属の上司が、彼の人事考課書に「無遅刻無欠勤で、まじめに業務に取り組む頼もしい人材である。」と書いたら、人事課長であるあなたはどう感じるでしょうか。

この上司は、確かに彼にプラスの評価を与えていますが、彼の業績やそれを可能ならしめた彼のスキルや徳性には全くと言っていいほどふれていません。ふつう、この人事考課書からまず読み取れるのは、「この上司は彼のことを快く思っていないのだな」ということでしょう。

このように、われわれはある情報を耳にしたとき、その内容を言外のニュアンスをも含めたコンテキスト(文脈)として把握しています。ところが、情報が専門的、個別具体的、散文的になっていくと、たいていの人はコンテキスト(文脈)ではなく、キーワードに反応する傾向が高まるような気がしています。そして、そのキーワードにかつて自分が与えた意味内容でもって、発言全体を解釈しようとします。

ですから私は、中小企業支援の現場で、ある企業の経営課題の切り分けを行う際、「マーケティング上の課題だ」とか「事業承継の問題だ」といった表現はなるべく用いず、具体的なタスクの形で『○○を△△しましょう』と伝えるようにしています。それでもなお「ということは、ITの問題ですよね?」と聞き返されることもありますが、簡単に同意を与えるべきではないとも思っています。

 それは、ひとたび「IT」「事業承継」というキーワードに変換された経営課題は、仮にその人の理解が「IT=ウェブサイト」「事業承継=税制上の措置の活用」であったとしたら、その理解レベルまで矮小化されかねないからです。こういう整理が必要だ、という個別のタスクを具体的に伝えないと、経営支援が本質を逸脱するリスクはきわめて高い、というのが現時点での私の認識です。

どうやら、誰かの発言の意味内容を正確に理解するには、地アタマの良さと、虚心坦懐に人の言うことに耳を傾ける姿勢と、心の余裕と、コモンセンスのいずれもが必要なようです。そしてこのことは、口頭でのアドバイスがいかにあやふやなものか、ペーパーにまとめることがいかに重要かを示唆しているとも思われます。


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